投稿日:2026年10月14日
更新日:2026年10月14日

このコラムの目次
院内処方と院外処方の最大の違いは、薬を医療機関の窓口で渡すか、院外の調剤薬局で受け取るかという受け渡し場所にあり、この違いが保険点数・患者負担・医療機関の収支構造にそのまま反映されます。厚生労働省が推進した医薬分業により現在は院外処方が主流ですが、患者の利便性や自院の診療科によっては院内処方が有効なケースも残っています。本記事では、両者の仕組みと費用構造の差、それぞれのメリット・デメリット、そして開業時にどちらを選ぶかの判断軸を、収支と患者体験の両面から整理します。
この記事の要約

院内処方と院外処方の違いは、薬の受け渡し場所と、それに伴う費用構造にあります。仕組みそのものを押さえたうえで、患者と医療機関の双方に発生する差を確認していきます。
院内処方とは、診察を受けた医療機関で薬を調剤し、その場で患者に渡す方式です。会計と薬の受け取りが同じ窓口で完結するため、患者は診察後にほかの場所へ移動する必要がありません。ただし調剤業務は薬剤師の独占業務であり、医療機関側で薬剤師を配置するか、医師法・薬剤師法で認められた例外条件を満たす体制を整える必要があります。
参考:薬剤師法第19条
院外処方とは、医療機関が処方箋を発行し、患者がそれを持って院外の調剤薬局で薬を受け取る方式です。医師と薬剤師の役割を明確に分ける「医薬分業」の考え方に基づいており、日本では1974年の「医薬分業元年」以降に段階的に広がり、1990年代後半からは政策的な後押しを受けて急速に普及してきました。医療機関側は薬剤の在庫や調剤設備を持つ必要がなく、薬局側でチェック機能を働かせる仕組みになっています。
同じ薬を処方しても、院内か院外かで医療機関の収入と患者の窓口負担額が変わります。院内処方の場合は「処方料+調剤料+薬価」が医療機関の収入となります。一方、院外処方の場合、医療機関が算定するのは「処方箋料」で、薬剤料(薬価)は算定しません。薬剤の調剤・交付を担う調剤薬局側が「調剤技術料+薬学管理料(服薬管理指導料など)+薬剤料(薬価)」を算定します。医療機関と薬局を合わせた点数の合計は院外処方のほうが大きくなるため、患者の自己負担額も院外処方のほうが高くなる傾向があります。

院外処方が主流になった背景には、医薬分業の政策的推進と、院内処方における経営メリットの縮小という要因があります。この構造を理解すると、なぜ多くの医療機関が院外処方を選んでいるのかが見えてきます。
医薬分業とは、医師が診断と処方を担い、薬剤師が調剤と服薬指導を担う役割分担の考え方です。日本薬剤師会の公表データによると、2023年度の処方箋受取率(医薬分業率)は80.3%となり、初めて8割を突破しました。医薬分業元年とされる1974年の診療報酬改定で処方箋料が大幅に引き上げられたことを起点に、約50年をかけて大台に到達したかたちです。とりわけ1997年に厚生省(当時)がモデル国立病院37施設に対し完全分業(院外処方箋受取率70%以上)を指示したことを契機に、政策的な後押しを受けて分業率が急速に伸びてきました。
参考:医薬分業とは 薬剤師向け | 日本薬剤師会オフィシャルWebサイト
かつて院内処方の魅力とされた薬価差益は、近年ではほぼ期待できない水準まで縮小しています。薬価差益とは薬の公定価格と仕入価格の差から生まれる利益のことですが、医療費適正化の流れで薬価が継続的に引き下げられ、ジェネリック医薬品の普及も相まって仕入れ側の値引き余地が減ってきました。以前は開業の初期収益を支える柱の一つでしたが、現在は院内処方を選ぶ経営的な動機として成立しにくくなっています。
院外処方が支持される理由の一つに、医師と薬剤師によるダブルチェックが働く点があります。処方箋を受け取った薬局薬剤師が、重複投薬や相互作用、他院からの処方内容との整合性を確認する仕組みです。とくに高齢者は複数の医療機関を受診しているケースも珍しくなく、かかりつけ薬局を軸にした一元管理は安全性の観点で評価されています。
保険点数の差を数字で把握しておくと、収支シミュレーションの精度が高まります。ここでは点数の内訳と、患者の窓口負担額に生まれる差を具体的に確認します。
| 処方方式 | 医療機関側で主に算定する点数 |
|---|---|
| 院内処方 | 処方料・調剤技術基本料・調剤料・薬剤情報提供料 |
| 院外処方 | 処方箋料(薬局側で調剤技術基本料・薬剤調整料・調剤管理料・服薬管理指導料) |
院内処方の場合、医療機関が算定するのは処方料に加え、調剤技術基本料・調剤料・薬剤情報提供料などです。処方料は服薬指示に対する点数で基本的に一律ですが、一度に7種類以上の内服薬を処方すると減算されるルールがあります。医療機関側で調剤業務が発生する分、算定できる点数は増えますが、その分だけ人件費や設備費という支出も発生する構造となっています。
院外処方の場合、医療機関側が算定するのは処方箋料が中心であり、原則60点(一般名処方加算等を加えると約66〜68点前後)となっています。参考として、内服薬2剤4日分と頓服薬1剤を処方したケース(基本技術料ベース)で比較すると、院内処方の医療機関での合計点数が69点であるのに対し、院外処方は医療機関側(処方箋料60点)と保険薬局側(調剤基本料1の47点、調剤管理料、服薬管理指導料等の合計約120〜130点〜)を合わせた合計で185点〜200点超にのぼります。医療機関単体での点数比較では、院内処方の技術料(69点)と院外処方の処方箋料(60点+加算)がほぼ同等となっていますが、薬剤の在庫・廃棄リスクの回避や、調剤に伴う人件費・機器導入コストを負担せずに済むことから、実質的な経営効率面で院外処方が選ばれやすい構造は維持されています。
同じ薬を処方しても、院内処方と院外処方で患者の窓口負担は数百円規模で変わります。前述の内服薬2剤4日分・頓服薬1剤の例では、3割負担の患者が支払う金額は院内処方で約231円、院外処方で約708円という差が出ます(令和4年度改定時点の点数に基づく試算)。慢性疾患で通院頻度が高い患者にとっては年間で無視できない負担増となり、院外処方に対する患者の心理的な抵抗の一因になっています。なお、実際の負担額は診療報酬改定や薬局側の加算取得状況によって変動するため、事業計画上は現行点数で改めて試算することが望まれます。
院内処方のメリットは、患者の利便性と経済性、そして院内の連携効率にあります。主流ではなくなった今でも、これらの価値を重視する医療機関では十分に選択肢になり得ます。
| 対象 | 得られるメリット |
|---|---|
| 患者 | 移動の手間が省け、窓口負担額が安く済む |
| 医療機関 | 医師・看護師と薬剤師が院内で直接連携できる |
院内処方であれば、患者は診察後に別の場所へ移動することなく、その場で薬を受け取れます。体調がすぐれない状態で外の薬局まで歩き、そこで再び待ち時間を過ごすというプロセスがなくなるため、通院そのものの負担が小さくなります。高齢者や小さな子どもを連れた保護者にとっては、この利便性が来院動機の一つになるケースもあります。
院内処方では算定される点数の合計が院外処方より低く抑えられるため、患者の窓口負担も軽くなります。慢性疾患で定期通院している患者や、外用薬・内服薬を複数併用している患者ほど、月あたり・年あたりの差は大きくなります。経済的な負担が続く患者層をターゲットにする場合、院内処方が患者満足度の向上と再来院につながる可能性があります。
院内に薬剤師が常駐している場合、医師や看護師との連携がスムーズに進みます。薬の変更や日数調整、飲み合わせの確認といった判断が、カルテを共有しながらその場で完結するためです。処方後に患者から質問を受けた際も、医師と薬剤師が同じ空間にいることで即座に対応でき、医療の質の面での安心感を提供できます。
院内処方には、経営面・オペレーション面で押さえておくべきデメリットがあります。開業時のコスト構造と物件条件に直結する論点なので、事業計画段階で必ず整理しておきたいところです。
| デメリットの種類 | 開業への影響 |
|---|---|
| コスト面 | 薬剤師の人件費と調剤機器の設備費が固定的に発生 |
| 物件・設備面 | 調剤スペースと薬剤保管スペースが必要 |
| 在庫・安全面 | 在庫リスクと薬剤チェックの欠如が課題 |
院内処方を採用する場合、薬剤師の人件費と調剤関連機器の設備費が継続的に発生します。調剤は本来薬剤師の独占業務であり、法令上の例外条件を満たさない限り薬剤師の配置が前提となります。人件費は月数十万円単位で固定費として乗ってくるうえ、分包機や散剤監査装置などの設備投資も加わるため、開業初期のキャッシュフローに与える影響が大きくなります。
院内処方には、調剤作業を行うスペースと薬剤を保管するスペースの確保が欠かせません。内服薬・外用薬・注射薬をそれぞれ適切な環境で管理するには一定の面積が必要で、テナント面積が限られる小規模クリニックでは診察室や待合室を圧迫することもあります。物件選定の段階で必要面積を織り込んでおかないと、開業後に増改築が必要になるケースも出てきます。
院内処方では、医療機関が自ら薬剤の発注と在庫管理を担うことになります。処方の頻度が読みにくい薬剤を過剰に発注すれば、使用期限切れによる廃棄で赤字要因となるためです。逆に在庫を絞りすぎると患者への処方ができず、来院した患者を薬局へ回すという矛盾が生じます。診療科や患者層によって処方薬の種類が広いほど、在庫管理の難易度は上がっていきます。
院内処方では、院外薬局による第三者的なチェック機能が働きにくくなります。院外処方であれば薬局薬剤師が他医療機関の処方履歴や飲み合わせを確認し、医師の処方内容にダブルチェックをかける仕組みが機能しますが、院内で完結する場合はこのチェックが省略されがちです。とくに医師のみで運用する体制では、複数の医療機関を受診している患者に対する重複投薬リスクへの注意が求められます。
参考:電子処方箋管理サービスにおける 重複投薬等チェックの概要
院外処方のメリットは、収益面と業務効率、そして医師の役割集中にあります。主流となっている理由が、これらのメリットの積み重ねで説明できます。
| メリットの種類 | 医療機関への効果 |
|---|---|
| 収益面 | 処方箋料の点数が高く、医療機関側の収入が安定 |
| コスト面 | 薬剤師の人件費・調剤機器・在庫リスクが不要 |
| 業務面 | 医師が診療業務に集中できる |
院外処方では処方箋料の点数が院内処方の処方料より高く設定されており、医療機関側の収入が伸びやすくなります。薬剤の在庫を持たないため、薬価差益に頼らず処方箋料と診療報酬本体で収益を組み立てる形になり、収支構造もシンプルです。外来患者数が多い診療科では、この処方箋料の積み上げが月次の収益に安定して寄与するようになります。
院外処方であれば、薬剤師の人件費や調剤機器への設備投資を負担する必要がありません。テナントの必要面積も抑えられるため、開業時の初期投資と毎月の固定費の両方が軽くなります。物件を小さめに借りられれば賃料も下げられ、その分を医療機器や広告費、スタッフの採用条件に振り向けられるようになります。
院外処方では、調剤や薬剤の在庫管理といった業務を薬局側に任せられるため、医師と看護師は診療業務に集中できます。1人あたりの診療時間を確保しやすくなり、単位時間あたりの患者数を増やす経営判断もとりやすくなります。開業医の業務負担を軽くしたい場合や、複数の診療科目を標榜して外来数を確保したい場合ほど、院外処方の効果は大きくなります。
院外処方にもデメリットはあり、患者の視点と集患の観点で見過ごせない論点があります。とくに開業立地との相性を左右する要素なので、物件選定と併せて検討しておく必要があります。
| デメリット | 開業への影響 |
|---|---|
| 患者負担面 | 窓口負担と移動負担が院内処方より増える |
| 集患面 | 連携薬局の立地と質が集患に影響する |
院外処方では、患者にとって窓口負担額と移動負担が増える構造になります。医療機関で会計を済ませたあと、別の場所にある薬局まで移動し、そこで再び受付・待ち時間・会計というプロセスを繰り返すことになるためです。金額の差も加わることで、患者から「なぜ薬をここで出してもらえないのか」という声が寄せられることも珍しくありません。競合クリニックとの差別化を考えるうえでは、この患者体験の差が集患に影響することもあります。
院外処方を採用する場合、連携する調剤薬局がどこにあるかによって患者体験と集患効果が変わります。医療機関のすぐ隣に薬局がある「門前薬局」や医療モール内の薬局であれば移動負担は小さく済みますが、離れた場所にしか薬局がない立地では患者の満足度が下がりやすくなります。開業物件を選定するときには、周辺の薬局の位置関係と営業時間を含めて検討することが望ましいでしょう。

開業時にどちらを選ぶかは、診療科・立地・患者層の3要素で判断するのが実務的です。「院外が主流だから院外」という単純な結論ではなく、自院の条件に沿って選び分ける発想が求められます。
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外来診療が中心の一般的なクリニックでは、院外処方のほうが収支面で有利になるケースが多くなっています。処方箋料の点数と、薬剤師人件費・設備費・在庫リスクが不要になる効果を合算すると、開業初期のキャッシュフローが安定しやすいためです。内科・小児科・皮膚科・耳鼻咽喉科など、幅広い薬剤を扱う診療科ほど在庫リスクを避けられる効果が大きくなります。
【関連記事】皮膚科開業を成功させる手順とは?資金の目安と経営の注意点を解説|医院・クリニックの開業支援 – スギ薬局グループ DCPソリューション
高齢者比率が高いエリアや、周辺に調剤薬局が少ない立地では、院内処方が選択肢に上がります。移動負担を減らせることが集患の差別化要因になり、患者満足度と再来院率にもつながるためです。地域医療の役割を担うクリニックや、慢性疾患のかかりつけ医として長期関係を築くタイプの診療スタイルとは相性がよく、収支面のデメリットを患者満足で補える設計が可能になります。
最終的な判断は、診療科の特性と開業立地の条件をかけ合わせて組み立てることになります。処方薬の種類が多く在庫リスクの大きい診療科であれば院外処方が現実的ですし、薬剤の種類が限定的で門前薬局が確保しにくい立地なら院内処方の妥当性が上がります。開業コンサルタントや薬局との事前協議のなかで、事業計画上のキャッシュフローと患者体験の両面から比較しておくことが実務では有効です。
院内処方と院外処方は、同じ患者に対して原則として同一診療日に併用できません。この制約は診療報酬算定のルールに基づくもので、例外もあるため実務上の扱いを理解しておく必要があります。
| 併用の可否 | 適用ルール |
|---|---|
| 同一診療日に同一患者へ併用 | 原則不可(処方料と処方箋料の二重算定になるため) |
| 別の診療日に同一患者へ併用 | 可(その日の処方方式に応じて算定) |
| 例外的な併用 | レセプトの摘要欄に日付と理由の記載が必要 |
同一診療日に、同じ患者へ院内処方と院外処方を併用することは原則認められていません。院内処方の処方料と院外処方の処方箋料を同時に算定する形になり、診療報酬算定上の二重取りにあたるためです。開業時に「一部の薬だけ院内で出す」といった運用を想定している場合は、同一日に併用しない形での運用ルールを事前に決めておく必要があります。
緊急事態など例外的な理由で併用が発生した場合は、レセプトの摘要欄に日付と理由を記載することが求められます。あくまで例外運用であり、日常的な処方の選択肢として使えるものではありません。開業時点では処方方式を院内か院外かのどちらかに決めておき、例外対応のルールをスタッフに周知しておく体制が現実的です。
院内処方と院外処方の違いは、薬の受け渡し場所という一点から派生して、保険点数・患者負担・医療機関の収支構造・オペレーション設計にまで影響します。医薬分業率が8割を超える現在(2026年度84.6%)、収支面では院外処方が有利な場面が多い一方で、高齢者比率が高いエリアや薬局過疎地では院内処方も依然として合理的な選択肢です。診療科・立地・患者層の3要素を組み合わせ、開業後のキャッシュフローと患者体験の両面から判断することが求められます。
とはいえ、初めての開業で処方方式を決めるには、地域の薬局配置や物件条件、想定患者層、事業計画上の収支バランスまで踏まえた総合的な判断が必要になり、独力で情報を集めきるには相応の時間と経験が必要です。院外処方を選ぶなら連携薬局の位置関係を、院内処方を選ぶなら物件面積と薬剤師の確保方法を、それぞれ物件検討と並行して詰めていく段取りが欠かせません。
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