
内科開業を考えているものの、競合の多さや多額の資金に不安を感じている方
も多いのではないでしょうか。実際、内科は開業医の中で最も施設数が多く、
しっかりとした戦略なしに成功することは困難です。しかし、適切なコンセプ
ト設計と地域のニーズに応える体制を整えれば、安定した経営を実現し、地域
医療に大きく貢献することができます。この記事では、内科開業に必要な資金
の目安や年収の実態、そして失敗しないための具体的な経営戦略を解説します。
読み終わる頃には、開業に向けて今すぐ取り組むべき準備が明確になるはずで
す。

内科を開業するにあたり、まずは現在の市場環境と動向を正確に把握するこ
とが欠かせません。内科は患者にとって最も身近な診療科である一方で、施設
数が多く競争が激しいという特徴を持っています。どのような環境で開業の準
備を進めることになるのか、データに基づいた現状を確認していきましょう。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 内科の施設数割合 | 全診療所の約61.7%(令和5年医療施設調査より) |
| 従事する医師の割合 | 診療所に従事する医師の約36.2% |
| 競合の状況 | 非常に激しく、他院との差別化が必須 |
| 求められる役割 | 地域のかかりつけ医としての幅広い対応 |
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査」によれば、
内科を標榜する診療所は全国に約6万4000施設あり、全体の約61.7%を占めて
います。このデータからもわかるように、内科は圧倒的に施設数が多く、同じ
地域内に複数の競合クリニックが存在することが通常です。そのため、ただ看
板を掲げるだけでは患者を集めることは難しくなっています。競争の激しい環
境の中で生き残るためには、自院ならではの強みを見つけ、地域の患者から選
ばれる理由を明確にする必要があります。
参考:厚生労働省「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」
内科と一口に言っても、一般内科のみを標榜するのか、消化器や循環器などの
専門領域を組み合わせるのかによって、開業の難易度や戦略は大きく異なりま
す。一般内科のみの場合は幅広い患者を受け入れやすい反面、競合との差別化
が難しくなります。一方で、専門領域を掲げる場合は、特定の疾患に悩む患者
をターゲットにできるため、遠方からの集患も見込めます。ただし、専門領域
に特化しすぎると、風邪などの一般的な症状で受診をためらう患者を生む可能
性もあるため、バランスの取れた診療体制を構築することが重要です。
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クリニックを開業する際、最も気になるのが資金の問題ではないでしょうか。
内科の開業には多額の初期投資が必要であり、事前の資金計画が経営の安定を
大きく左右します。設備資金と運転資金の二つの側面に分けて、具体的な金額
の目安を見ていきましょう。
| 資金の種類 | 金額の目安 | 主な使途 |
|---|---|---|
| 初期設備資金 | 5,000万円から8,000万円程度 | 内装工事費 テナント契約費 医療機器購入費 IT設備費 |
| 開業後運転資金 | 1,500万円から3,000万円程度 | スタッフの人件費 家賃 水道光熱費 医薬品などの消耗品費 |
| 合計の目安 | 6,500万円から1億1,000万円程度 | 開業前後のトータル必要資金 |
内科をテナントで新規開業する場合、標準的な内装や検査機器であっても
6,000万円から9,000万円程度が必要になります。この中には、テナントの保
証金や敷金、内装の設計・工事費、電子カルテやX線撮影装置などの医療機器
購入費が含まれます。特に医療機器は診療内容によって大きく変動し、消化器
内科で内視鏡を導入する場合などは、さらに多額の資金が必要です。自己資金
だけで賄うことは難しいため、日本政策金融公庫や民間金融機関からの融資を
活用し、無理のない返済計画を立てることが求められます。
開業したからといって、すぐに患者が集まり黒字化するわけではありません。
クリニックの認知が広がり経営が軌道に乗るまでには、半年から1年程度の期
間がかかるのが一般的です。その間のスタッフの人件費や家賃、光熱費、医薬
品の仕入れ費用などを賄うために、1,500万円から3,000万円程度の運転資金
をあらかじめ確保しておく必要があります。資金ショートを起こさないよう、
余裕を持った運転資金の準備が経営を安定させるための鍵となります。
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開業資金の目処が立ったところで、次に知っておきたいのが開業後の収入につ
いてです。多額の投資に見合うだけのリターンが得られるのか、多くの医師が
関心を寄せる部分です。公的なデータを参考に、内科開業医の年収の目安を確
認してみましょう。
| 働き方の形態 | 年収(損益差額)の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 勤務医(内科) | 約1,200万円程度 | 収入は安定しているが、大幅な増加は見込みにくい |
| 個人開業医(内科) | 約2,900万円程度 | 経営手腕により収入が変動するが、勤務医より高い水準 |
| 医療法人(内科) | 約1,900万円程度(役員報酬控除後) | 事業規模が大きく、節税効果や事業承継に有利 |
厚生労働省の「第24回医療経済実態調査」によると、個人開業医における年間
の損益差額は約2,900万円となっています。一方で、医療法人化しているクリ
ニックの場合、法人の損益差額は約1,900万円ですが、これは院長に対する役
員報酬がすでに費用として差し引かれた後の金額です。法人化することで税負
担を軽減できるメリットがありますが、設立のための手続きや条件が複雑にな
ります。まずは個人開業からスタートし、収益が安定してきた段階で法人成り
を目指すのが一般的な流れです。
参考:厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-令和5年実施」
勤務医として働く内科医の平均年収は、およそ1,200万円程度とされています。
これと比較すると、開業医の年収は倍以上の水準になる可能性があります。た
だし、この金額はあくまで経常的な利益の平均値であり、すべての開業医がこ
の水準に達するわけではありません。開業すれば自動的に収入が上がるわけで
はなく、集患のための努力やスタッフの適切なマネジメントといった経営者と
しての手腕が問われます。成功すれば大きなリターンを得られますが、それに
伴う経営リスクも背負うことを理解しておく必要があります。

競合が多い内科で安定した経営を続けるためには、事前の周到な準備と明確な
戦略が欠かせません。単に医療技術を提供するだけでなく、地域の患者から選
ばれるクリニックを作るための経営視点が必要です。ここでは、失敗を避ける
ための重要なポイントを整理して解説します。
| 失敗しないためのポイント | 具体的なアクション | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 診療コンセプトの明確化 | 「何を診て、何を診ないか」を言語化する | ターゲット層に刺さる魅力的なクリニックになる |
| 診療圏調査の実施 | 人口動態や競合クリニックの状況をデータで分析する | 適切な開業立地の選定と需要予測ができる |
| 近隣機関との連携 | 高度医療機器を持つ病院や専門医と関係を構築する | 患者の紹介ルートを確保し初期投資を抑えられる |
| マーケティングの実行 | ホームページや看板、Web広告を活用して認知を広げる | 新規患者を安定的かつ継続的に獲得できる |
開業において最も重要なのが、自院の診療コンセプトを明確にすることです。
どのような患者の、どのような悩みを解決するクリニックにするのか、「何を
診て、何を診ないか」をはっきりと定めましょう。例えば、働く世代の生活習
慣病予防に特化するのか、高齢者の在宅医療に力を入れるのかによって、必要
な設備や内装、スタッフの配置が全く異なります。コンセプトが曖昧なままで
は、どの患者層にも響かない特徴のないクリニックになってしまうため注意が
必要です。
立地選びはクリニック経営の生命線です。物件の良し悪しだけでなく、その地
域の人口動態や年齢層、既存の競合クリニックの数を客観的なデータで分析す
る診療圏調査を必ず実施してください。競合が少なく、ターゲットとする患者
層が多く住む地域を選ぶことが基本です。特に内科は地域密着型の診療となる
ため、駅から少し離れていても、住宅街の近くや駐車場を確保しやすい場所の
ほうが、結果的に集患に有利になるケースも少なくありません。
すべての医療機器を自院で揃えようとすると、莫大な初期投資が必要になり経
営を圧迫します。そこで重要になるのが、近隣の病院や他の専門クリニックと
の連携です。CTやMRIなどの高度な検査が必要な場合は提携先の病院に紹介し、
日常的な診療は自院で行うという体制を整えましょう。地域の医療ネットワー
クに組み込まれることで、他の医療機関から患者を紹介してもらえるようにな
り、広告費をかけずに集患を安定させる効果も期待できます。
クリニックを開院しただけで自然に患者が集まる時代ではありません。開院前
から開院後にかけて、継続的なマーケティング活動を行うことが必須です。患
者の多くはインターネットで症状や近くの病院を検索するため、スマートフォ
ンで見やすく、診療内容や医師の顔写真がわかるホームページの作成は不可欠
です。それに加えて、地域の患者の目にとまる看板やチラシ、必要に応じて
Web広告などを組み合わせることで、認知度を高め、初診の患者を増やすこと
ができます。
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一般内科に加えて専門領域を標榜する場合、その専門性に合わせてターゲット
となる患者のニーズも変化します。専門領域を活かして競合との差別化を図る
ためには、それぞれの特徴に合わせた経営戦略を立てることが有効です。代表
的な専門領域ごとの戦略を見ていきましょう。
| 専門領域 | ターゲット層と特徴 | 有効な戦略と必要な設備 |
|---|---|---|
| 消化器内科 | 胃や腸の不調を抱える患者 がん検診希望者 |
内視鏡検査設備の導入 検査後の回復室の確保 |
| 呼吸器内科 | 喘息 長引く咳 睡眠時無呼吸症候群の患者 |
感染症対策の徹底 発熱外来の設置 循環器科との連携 |
| 循環器内科 | 高血圧 不整脈などを持つ主に高齢の患者 |
バリアフリー設計の徹底 心電図や超音波診断装置の導入 |
| 糖尿病内科 | 生活習慣病を抱える患者 | 継続通院を促す丁寧な指導 管理栄養士の配置 |
消化器内科を開業する場合、内視鏡検査をどのように提供するかが大きな鍵と
なります。患者の苦痛を軽減する最新の内視鏡システムを導入し、検査後の安
静を保つためのリカバリールームを設けるなど、質の高い検査体験を提供する
ことが集患につながります。また、健康診断での異常をきっかけに来院する患
者も多いため、近隣の企業や健診センターとの連携を深めることも有効な戦略
です。
呼吸器内科では、長引く咳や喘息の患者が多く来院します。近年は感染症に対
する意識が高まっているため、一般の待合室とは別に発熱患者用の待機スペー
スを設けるなど、院内感染対策を徹底していることをアピールすることが安心
感につながります。また、息切れの症状は心臓の疾患が原因であることも少な
くないため、循環器内科の専門医と迅速に連携できる体制を構築しておくこと
が、患者の不利益を防ぎ信頼を得るために重要です。
循環器内科は高血圧や心不全など、高齢の患者が多く通院する診療科です。そ
のため、車椅子での移動がしやすいように段差をなくし、廊下を広く取るなど
のバリアフリー対応が必須となります。また、循環器の疾患は患者にとって専
門的で難しく感じられやすいため、ホームページやパンフレットを用いて、
「どのような症状のときに受診すべきか」をわかりやすい言葉で丁寧に説明す
る情報発信が求められます。
糖尿病内科は、患者に生涯にわたる継続的な通院と生活指導を受けてもらう必
要があります。そのため、医師の診察だけでなく、管理栄養士による食事指導
や、看護師によるきめ細やかなサポート体制を整えることが差別化につながり
ます。患者が途中で治療を離脱しないよう、通いやすい温かみのある院内環境
を作り、予約システムの導入で待ち時間を減らすなど、患者のストレスを最小
限に抑える工夫が成功のポイントです。
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ここまで内科開業のノウハウを解説してきましたが、実際の開業現場ではどの
ような課題があり、どう乗り越えているのでしょうか。成功しているクリニッ
クの実例を知ることで、ご自身の開業に向けた具体的なイメージが湧きやすく
なります。二つの開業事例を紹介します。
| クリニック名 | 開業場所 | 成功のポイント |
|---|---|---|
| みうら皮フ科クリニック | ドラッグストア2階テナント | 内科・皮膚科の経験を活かした診療と、通いやすさを意識した差別化 |
| たけのここどもクリニック | ドラッグストアの駐車場敷地内 | 豊富な共有駐車場と、ターゲット層のニーズを的確に捉えた院内設計 |
みうら皮フ科クリニックの三浦和久院長は、血液内科医としてジェネラリスト
の経験を積んだ後、皮膚科医としても長年勤務し、名古屋市内のスギ薬局2階
にクリニックを開業されました。この事例から学べるのは、複数の経験を活か
した「かかりつけ医」としての強みです。内科と皮膚科の両方の視点を持つこ
とで、子どもから高齢者まであらゆる世代に親しまれる診療を実現しています。
ドラッグストア併設という通いやすい立地と、幅広い診療対応を両立させた実
例と言えます。
たけのここどもクリニックの竹内穂高院長は、患者さん親子の安心を第一に考
え、さいたま市内のスギ薬局駐車場敷地内での開業を決断されました。子ども
の数が増え競合も少なくない住宅街での開業ですが、スギ薬局と共有できる
46台分の無料駐車場があることが大きな強みとなっています。また、一般診療
用の「パンダの部屋」と乳幼児健診・予防接種用の「うさぎの部屋」など診察
室を分ける工夫をしており、ターゲットの安心感を高める院内づくりは非常に
参考になる実例です。
この記事の要点をまとめます。
事前の周到な準備と地域の声に寄り添う真摯な姿勢が、開業の不安を自信に変
え、地域に愛されるクリニックづくりへとつながるはずです。