
開業医の方向けに、老後資金の不安を減らすための年金対策を解説します。個人事業主として開業すると、将来受け取れる
公的年金が勤務医時代と比べて大きく減少してしまうことに悩む方は少なくありません。
この記事では、開業医が知っておくべき年金制度の仕組みから、将来の受給額を増やすための私的年金制度の選び方までを
詳しくお伝えします。読み終える頃には、ご自身に合う年金対策の選び方が分かり、老後に向けた準備を始めやすくなりま
す。
開業医の年金対策は、公的年金に加えて、iDeCoや小規模企業共済などを組み合わせるのが基本です。早い段階から節
税しながら積み立てを行うことが重要と言えます。

開業医として独立した後、老後の年金受給額が勤務医時代と比べて大きく変わることをご存知でしょうか。公的年金の仕組
みは、個人事業主か医療法人かという経営形態によって異なり、将来受け取れる金額にも大きな差が生まれます。まずは、
開業医を取り巻く年金制度の実態と、老後資金における課題を整理していきましょう。
| 経営形態 | 加入する公的年金 | 被保険者種別 | 将来の受給額の目安 |
|---|---|---|---|
| 個人事業主(非法人) | 国民年金 | 第1号被保険者 | 基礎年金のみとなり少ない |
| 医療法人(法人化) | 厚生年金 | 第2号被保険者 | 基礎年金に報酬比例部分が加算される |
勤務医から独立して個人事業主になると、公的年金は厚生年金から国民年金へと切り替わります。日本の公的年金制度は、
国民年金を基礎とする仕組みとなっており、個人事業主である開業医は第1号被保険者に該当する仕組みです。
国民年金のみに加入している場合、将来受け取れるのは老齢基礎年金だけとなります。日本年金機構の公式資料によります
と、令和8年度の老齢基礎年金の満額は年間で約85万円(月額70,608円)となっています。
勤務医時代のように報酬に比例して受給額が増える厚生年金部分がなくなるため、将来の受給額は大幅に減少してしまいま
す。
現役時代に近い生活水準を目指すなら、この金額だけで老後資金を賄うのは難しいでしょう。そのため、早い段階から自助
努力による上乗せ対策を検討していくことが大切です。
【関連記事】開業医は儲からないと言われる理由は?年収の現実と失敗を防ぐ対策|医院・クリニックの開業支援-スギ薬
局グループDCPソリューション
一方で、クリニックを法人化して医療法人となっている場合は、年金制度の扱いが大きく異なります。医療法人は厚生年金
保険の適用事業所となるため、理事長や役員である開業医も厚生年金の被保険者となります。
この場合、国民年金である基礎年金に加えて、報酬に比例した厚生年金を受け取ることが可能です。個人事業主と比較する
と、将来の公的年金受給額は多くなる傾向にあります。
ただし、役員報酬が高いからといって無尽蔵に年金額が増えるわけではありません。厚生年金の保険料計算には上限となる
標準報酬月額が定められているため、一定の報酬を超えると納付する保険料も将来の受給額も頭打ちになります。
そのため、医療法人の理事長であっても、ゆとりある老後生活を送るためには公的年金だけでは不足する可能性が高いと考
えられます。法人化によるメリットを享受しつつも、追加の資産形成策を併用していくことが求められる状況です。
参考:厚生労働省「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて」

公的年金だけでは老後の生活水準を維持することが難しいと分かった場合、次に考えるべきは私的年金制度の活用です。開
業医が利用できる制度には複数の選択肢があり、経営形態や所得水準によって最適な組み合わせは異なります。ここでは、
節税効果や受取方法の違いに注目しながら、代表的な5つの私的年金制度をそれぞれ解説します。
医師年金は、日本医師会が会員向けに独自に運営している私的年金制度です。公的年金だけでは不安を感じる医師の老後資
金を手厚くする目的で設けられています。満64歳6カ月未満の日本医師会会員であれば加入することができ、勤務医や開
業医といった就業形態は問われません。
この制度の大きな特徴は、ご自身のライフプランに合わせて掛け金の増減や支払方法を柔軟に変更できる点にあります。基
本となる年金保険料に加えて、余裕がある時期には加算年金保険料を上乗せして将来の受給額を増やすことも可能です。税
制メリットよりも、掛け金調整のしやすさや保障設計の考え方を重視する場合には選択肢になります。
ただし、掛け金は生命保険料控除を含む所得控除の対象とはならないため、所得控除による税負担の軽減にはつながりにく
い点に注意が必要です。iDeCoなど節税効果のある他の制度と比較しながら加入を検討していくのが良いでしょう。
参考:税金の取り扱いについて|医師年金|公益社団法人日本医師会
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の役員が退職金代わりとして積み立てを行うことができる国の制度です。独立
行政法人中小企業基盤整備機構が運営しており、将来の備えとして多くの開業医に利用されています。最大の魅力は、支払
った掛け金が全額控除として所得から差し引かれることです。
所得税率が高い場合は、節税効果が大きくなる傾向があります。掛け金は月額の範囲内で自由に設定でき、経営状況に合わ
せて増額や減額をすることも可能です。
また、将来資金を受け取る際には、一括で受け取れば退職所得扱いとなり、分割で受け取れば公的年金等雑所得扱いとなり
ます。受取時にも税制上の扱いにメリットがあるため、選択肢の一つとして検討しやすい制度です。
参考:制度の概要|共済制度|独立行政法人中小企業基盤整備機構
iDeCoは、自分で決めた掛け金を積み立てて運用し、原則60歳以降に受け取る私的年金制度です。個人事業主の開業
医であれば、高い限度額まで掛け金を拠出することができます。
小規模企業共済と同様に、掛け金の全額が所得控除の対象となるため、毎年の所得税や住民税を効果的に抑えることが可能
です。さらに、運用期間中に出た利益に対しても税金がかからないというメリットがあります。
運用商品は投資信託や定期預金などから自ら選ぶ仕組みとなっており、リスク許容度に応じた資産形成が可能です。厚生労
働省の案内でも、老後の資産形成手段として広く推奨されています。ただし、原則として60歳まで資金を引き出すことが
できないため、当面の事業資金や生活費に影響が出ない範囲で掛け金を設定することが重要となります。
国民年金基金は、国民年金の第1号被保険者である個人事業主が、基礎年金に上乗せして加入できる公的な年金制度です。
会社員が加入する厚生年金に相当する部分を、個人事業主自らが準備できるように作られた仕組みとなっています。掛け金
の全額が社会保険料控除の対象となるため、所得税や住民税の軽減効果を得ることができます。
また、生涯にわたって受け取ることができる終身年金が基本となっているため、長生きのリスクに備える手段として有効で
す。将来の受給額があらかじめ確定しているため、老後の資金計画が立てやすいという安心感もあります。ただし、iDe
Coと国民年金基金は合算して拠出限度額が決められているため(現行月額68,000円、2026年12月より月額75,000円に
引上げ予定)、どちらを優先するかはご自身の運用に対する考え方次第で決めていく必要があります。
企業型DCは、厚生年金適用事業所が導入できる確定拠出年金制度です。医療法人の場合、理事長や役員だけでなく、スタ
ッフの福利厚生としても活用することができます。法人が掛け金を拠出するため、全額を損金として計上でき、法人税の負
担を軽減する効果があります。
また、掛け金は給与として扱われないため、社会保険料の算定基礎から外れ、法人と個人の双方にとって社会保険料の削減
につながる可能性があります。運用は加入者自身が行い、将来の受給額は運用成績によって変動します。※具体的な取扱い
は制度設計や加入状況により異なるため、導入時に専門家へ確認が必要です。
最近では、スタッフの定着率向上や採用力強化を目的として、この制度を導入する医療法人が増えてきています。法人化を
しているクリニックにとっては、個人の資産形成と法人の経営課題解決を同時に図ることができる有力な選択肢となります
。
参考:厚生労働省「DC制度・その他(第38回社会保障審議会企業年金・個人年金部会資料1)」

私的年金制度にはさまざまな選択肢があるため、「どれが自分に合っているのか分からない」と感じる方も少なくありませ
ん。制度を選ぶ際には、節税効果の大きさだけでなく、資金の引き出しやすさや将来の受取時の税負担も含めて総合的に判
断することが大切です。ここでは、開業医が年金対策を比較検討する際に押さえておきたい3つの視点を解説します。
年金対策を選ぶ上で、掛け金に対する税制優遇の仕組みを正しく理解することは非常に大切です。制度によって、全額が所
得控除になるものと、一部しか控除されないものがあります。
たとえば、小規模企業共済やiDeCoは掛け金の全額が所得から差し引かれるため、所得税率が高い開業医にとっては節
税効果が大きくなります。一方で、生命保険料控除の対象となる制度では、控除額に上限が設けられているため、得られる
恩恵が限定的になる場合があります。
さらに、医療法人の場合は、法人の経費として損金算入できるかどうかも重要な判断基準となります。個人の所得税を減ら
したいのか、法人の利益を圧縮したいのか、ご自身の現在の経営状況に合わせてメリットを受けられる方法を検討していく
ことが重要です。
老後資金の準備は長期間にわたるため、経営環境やライフステージの変化に対応できる柔軟性があるかどうかも確認してお
く必要があります。特定の制度では、一度設定した掛け金を減額することが難しかったり、原則として特定の年齢まで資金
を引き出せなかったりする制約が設けられています。
クリニックの設備投資が必要になった場面や、予期せぬ収益減少が起きた場面でも無理なく継続できる金額を設定すること
が肝心です。資金の流動性を確保しつつ老後に向けた積み立てを行うためには、流動性の低い制度と、いつでも引き出しが
可能な金融商品をバランス良く組み合わせることが望ましいといえます。将来の引退時期や理想とする生活水準を具体的に
イメージしながら、無理のない範囲で計画を立てることが大切です。
年金対策を選ぶ際には、積み立て時の節税効果だけでなく、将来の受取時にどのような税負担が生じるかも合わせて確認し
ておくことが重要です。受け取り方が「一時金」か「年金形式」かによって、適用される税制が大きく異なります。
一時金として受け取る場合は退職所得控除が適用され、積立期間が長いほど控除額が大きくなる仕組みです。ただし、20
26年1月1日以降、iDeCo一時金と勤め先の退職金を両方一時金で受け取る場合、受取間隔が10年未満だと退職所
得控除が大幅に縮小される「10年ルール」が適用されるため、実際の手取り額は受取順・タイミングによって大きく変わ
ります。一方、年金形式で受け取る場合は公的年金等控除の対象となりますが、他の収入との合算によっては税負担が想定
より大きくなるケースもあります。
参考:iDeCo(イデコ)のメリット|iDeCoってなに?|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
この記事の要点をまとめます。
計画的な準備を進めることで、安心できる豊かな老後の実現へとつながっていきます。
開業医として安定した経営基盤を築くためには、年金対策と同時に、開業時の準備や経営支援を専門家に相談することも重
要です。スギ薬局グループのDCPソリューションでは、物件選定から事業計画の策定、開業後の経営支援まで一貫したサ
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